同世代と比べて劣っているからといって、人として劣っているわけじゃない

僕は、自閉症スペクトラムで大学院在籍中に行き詰ってうつ病で入院し、障がい者雇用からの再チャレンジで10年かけて正社員登用を勝ち取った人間です。僕は、一般就労できたのですが、社会からドロップアウトした人(精神障がい者やひきこもり)が普通に働けるようになるというのは、非常に難しいことだと痛感しています。

ドロップアウトした原因はさまざまだと思います。人間関係でうまく立ち回れなかったり、人と自分を比べて落ち込んだり、いじめであったり、勉強についていけなかったり、、そして、一旦ドロップアウトしてしまうと自分を高める場を失ってしまうので、復帰することはますます難しくなります。ここでまずお伝えしたいことは

自分の能力は、それまで親などから受けてきた教育投資でほぼ決まってしまう

ことです。一昔前までは、地域社会全体で子供を育てるような社会だったのですが、今は核家族化(両親と子供のみの家庭)とご近所づきあい自体が減っていることもあって、子育てが家庭内で閉じてしまいがちになっています。そうなってくると子育てに不具合があった場合、正してくれる人もいなく、子供に不具合がそのままでてきてしまいます。しかも不具合が出てくるのはある程度成長してからになるので、その時点から修正していくのは非常に難しいです。子供は親の能力を直接的に引き継いでしまうのです。

たとえば親がマナーのしっかりした人だと躾を受けることで親のマナーを受け継ぎます。でも親がマナーを知らない人だと、子供はマナーを覚えることができません、結果人間関係でトラブルを起こしてしまうことになります。ではマナーを知らないのは本人のせいでしょうか、人間関係でうまく立ち回れないのは本人のせいでしょうか?違いますよね。その時点でできていないからといって人として劣っている訳ではないのです、まだ経験が足りないだけの伸びしろがある状態なのです。

他にも、勉強ができるといっても、小さい頃から習い事をしていたり、親が絵本の読み聞かせをしてくれていたり、勉強になるおもちゃなどを買ってもらっていたりしていただけかもしれません。両親共働きで家族以外の人と接することもなくテレビだけを見て過ごすというような環境で育った人ではそうした人に勝ち目はありません。生育環境は自分では選ぶことはできないものであり、結果的に同世代と比べて劣っていたとしてもそれは必ずしも人間として劣っているわけではないのです。

 

社会からドロップアウトした人の就労に向けて

 ドロップアウトした時点で社会との関わりがなくなり、成長が止まってしまいます。社会は高速で進歩しているため、能力が足らずにドロップアウトした場合は追いつくためには相当な努力が必要となります。先ほども申しましたように、ドロップアウトの原因は必ずしも自分の責任ではありません。周囲の環境に適応する水準に『たまたま』自分が達していなかっただけであり、飛び込んだ環境の水準が『たまたま』高すぎただけということもありえます。水準に達していなくてドロップアウトした場合、水準を下げたところから自分を組みなおすことが追いつくための近道になるのだと僕は思っています。人間としての土台からしっかり組みなおしていくイメージです。土台がしっかりしていない状態で高度なことを学んだとしてもすぐに崩れてしまいます。そして土台から自分を組み替えるというのは、本当に時間がかかります。みんなが大学受験用の問題を解いている時に、小学生の算数の問題をやるようなものです。本当に焦ります。ですが、ドラゴン桜(勉強ができない高校生が東大合格を目指す漫画)でも、東大受験まであと1年という段階で数学の勉強ではなく小学生の算数からやり直すというシーンがあるように、それが結果的に近道になるのです。小学校の勉強を理解してはじめて中学校の勉強が理解でき、中学校の勉強を理解してはじめて高校の勉強が理解できるようになります。これは勉強に限った話ではなく、マナーであれ、コミュニケーションスキルであれ、家事であれ、どんなことでも土台からきちんと組んでいけば、ほとんどの人が身につけられるようになると僕は思っています。

 そしてこうした学び直しをする場合は、生活に余裕がなければ難しいと思います。私の場合、実家暮らしということもあり仕事や勉強に専念できる環境にあったこと、障害年金を受給したことで運転免許を取れたり、奨学金の返済の不安を解消できたことなどの支援があってはじめて、社会復帰することができました。自分も努力しましたが、努力できる環境を周囲の人に与えてもらったという感じです。私は社会経験もコミュニケーションスキルも全くない状態でドロップアウトしました。当然、社会で働いていくために何が必要なのかということをほとんどゼロから『学び直し』たのです。そうした経験を言葉にして伝えていきたいと思っています。